RKRN小説(暴君受け)

□深夜の補習授業
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 夕食時で賑わう食堂の一角で、六年生が全員顔をあわせて食事をしていた時のことだった。
「はぁ…」
 突如漏れ聞こえた溜め息に、どちらが早く食べ終わるかで競っていた文次郎と留三郎も、それを止めさせようとしていた伊作も、我関せずで箸を進めていた仙蔵と長次の手でさえもピタリと止まる。
 というのも、溜め息をついたのが普段はいけどん精神で細かい事など気にせずに突っ走る小平太だったからだ。
 前述の通り少しのことは気にしない小平太だからこそ、溜め息を吐く程落ち込むなんて、何か余程のことがあったに違いない。
「小平太、どうしたの?」
 優しい保健委員長である伊作が声を掛けると、小平太は案の定の弱り顔で口を開く。
「実は私、筆記テストで0点取ってしまってな…」
「えぇっ!? そんな、それは………、いつものことじゃなかったっけ?」
「うん、まぁよくある事だ…」
 まるでコントのようなやり取りに、横で聞いていた仙蔵・文次郎・留三郎はズッコケそうになった。
「じゃあ何にそんなに落ち込んでるんだよお前は!」
 思わず留三郎が突っ込みを入れると、小平太は更に重い溜め息を吐いてからことの次第を説明し始めた。
「いや、0点取るのはいつものことなんだが、今日はその後で先生に呼び出されてな。 私はこのままの成績で行くと、実技テストで100点を取らないことには卒業させてもらえないらしい」
「実技で100点って、お前なら取れそうな気もするんだが…」
 日頃よく共に鍛錬に励み、小平太の底なしの体力や規格外の脚力を知っている文次郎には、何がそんなにネックになるのか今一ピンとこない。
 けれど、仙蔵はその話に思うところがあった。
「いや、実技テストの配点は確か、忍術が50点で残り50点は色事の授業から出題されるはずだ。 …そうだろう、小平太?」
「うん…」
 小平太は最早頷いたんだか俯いているんだか判断がつかないような調子で呟く。
「私、前回の色事のテストの時くすぐったくて担当の先生を殴ったら、先生が気絶してしまってな…先生は一晩目を覚まさず、0点だったんだ…」
「成る程な、満点取らなきゃなんねぇテストの項目に前回0点だったヤツがあるから自信喪失してるって訳か」
 解説めいた留三郎の言葉に、小平太は現状を再認識して呻きながら頭を抱えた。
「ああもうどうすれば良いんだ…! これではみんなと一緒にいたいのに私だけ卒業できん…!!」
 みんなと一緒にいたい。
 その言葉は小平太の心からの思いであり、その場にいた六人に密かに共通する思いでもある。
 けれどそれを、こうしてはっきりと言葉にすることができるのはきっと小平太だけだ。
「小平太…」
 そんなに落ち込まないでと手を延ばす伊作の横で、仙蔵は呆れたようでどこか優しげな笑みを浮かべる。
「全く本当に、お前には敵わんな…」
 仙蔵は食事を終えた盆を持って席を立つと、小平太に向かって声をかけた。
「今夜私の部屋に来い、小平太。 自信が無いなら私達が特訓してやる」

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