RKRN連作小説

□秘密の姫君5
1ページ/3ページ


 留三郎と小平太が裏山へ出掛けて行った日から早数日。
 いつものように委員会の仕事をしていた留三郎の元へ、長次と仙蔵と伊作の三名が顔を揃えて訪ねて来た。
「留三郎、ちょっといいか」
 言葉だけ聞いているとこちらの様子を伺うような台詞だが、三人の様子は穏やかではなく、どこか威圧めいた空気を纏っている。
 伊作は焦った様な顔をしているし、長次が無愛想なのはいつものこととしても、仙蔵は顎を上げて完全にこちらを見下している表情だ。
「な、何だよ?」
 何故三人ともに揃ってそんな顔でやってくるのか全く身に覚えの無い留三郎としては、知らずおよび腰になるのも無理からぬ話だろう。
 果たしてこの三人の怒りを買うような真似を何かしただろうかと留三郎が記憶を辿っていると、伊作が溜め息を吐いてから口火を切った。
「何だじゃないよ留三郎。 君はさ、小平太のことが好きなの?」
「はぁ?」
 唐突に言われて、留三郎は思わず間の抜けた声を上げてしまった。
「一体何がどうしてそうなったんだよ…」
 確かにここ最近、小平太と共にいることが多いのは認めても良い。
 小平太が学園の器具備品を壊わしてしまわないように、監視する目的で意図的に共に時を過ごしているのだ。
 そうして小平太の近くにいることで彼の持つ様々な表情を目にする機会も多く、またそれは少なからず留三郎から見ると“可愛らしい”と思えるもので、そういう意味では好きか嫌いかと問われると前者といえる面の方が大きい。
 けれどそれは何も、こんな風に詰め寄られて詰問されるようなことだろうか。
「どうしても何も。 お前、先日の裏山で誰の目も無いのを幸いに小平太を抱きすくめていたと聞いたぞ」
 仙蔵が腕を組んで見下げた様な冷ややかな視線を投げかけてきた。
「何やら下心あっての行いかとばかり思っていたが、違ったのか?」
 あんまりな言い様に、留三郎はがっくりと肩を落とす。
「下心ってお前、俺は別に同性愛者じゃねぇよ…」
 あの日、裏山で腕の中に収めた身体は思っていたよりもずっと華奢で驚きはしたが、それでも同じ学園で机を並べる友人である以上性別は同性で確定済みというものだろう。
 留三郎は数日前の記憶を思い返していた。
 雨風を凌ぐために転がり込んだ横穴で見た、濡れた小平太の後姿。
 水を吸って重く冷たいだろうに、理由は分からないが上着を脱ぐ事を嫌がって震えていたのだ。
 あの時は深く追求しなかったが、どうしてあんなに嫌がっていたのだろう。
「………、あれ…?」
 肌を晒すのを嫌がる小平太。
 抱き締めたこの腕に伝わった柔らかな感触。
 それに加えて、この間の食堂での一件の時もそうであったが、小平太のこととなるとやたらに絡んでくるこの三人の鬼気迫る勢い。
「…えー…っと…」
 それらが留三郎の頭の中で、ある仮定の下に繋がっていく。
「あいつもしかして、…男じゃないのか?」
「「男だ!!!」」
「………………。」
 声を揃えてまさにコンマ一秒の速さで即答する仙蔵と伊作に、無言のままとはいえ首を横に振って否定してみせる長次。
 その三人の過剰なまでの反応が逆に怪しいと、留三郎は己の考えに一層の確信を持った。
「…そうかよ」
 取り敢えず表面上は納得したように振舞いつつ、その内心ではほぼ100%、小平太は女性なのだろうという思いが占めている。
 だってそう考えると、すべてに得心がいくのだ。
 それなのに違うと否定してくる三人の態度が白々しく見えて、留三郎はすっきりしないような面白くないような気分になった。
「話しって、それだけか? だったら悪ィ、俺、今度は向こうで作業しなきゃいけないから行くな」
「あ、ちょっと留三郎…!!」
 伊作がまだ何か言いたげに名前を呼んでいたが、それは聞こえないフリをして素早く工具を纏めるとさっさとその場を立ち去った。
 あくまでこの三人が隠し立てしようというのなら、小平太本人にことの真偽を確かめれば良い話だと思ったのだ。
「何と言うことだ…! 私としたことが、まさか留三郎に悟らせるような契機を自ら作ってしまうとは…ッ」
 留三郎が立ち去った後で完璧主義者の仙蔵が悔しそうに歯噛みした。
「でもどうしようか…。 これで留三郎に妙なことはするなとかって釘を刺すと、もうこっちからバラしにいってるみたいなものだよねぇ?」
 伊作は留三郎という人物を四年間同室で見てきただけあって、心配そうに眉を寄せる。
「あれで留三郎って、時々びっくりするくらい行動的なんだよなぁ…」
 足早に去って行く背中に不安を感じるが、下手な行動に出れば墓穴を掘るだけだ。
 頼むから変なことだけはしてくれるなよ、と。
 長次は留三郎の歩いて行った方を見詰めながら、心中で祈るように呟いた。

**
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ