11/12の日記
23:11
*優しい人間
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夏が過ぎ、木々の木の葉が色付き舞い散る頃になると、季節はいよいよ秋から冬へと移り変わり行く。
「………、どうにも手先が冷えていかんな」
その日、仙蔵は自室で机に向かって、得意武器である火器に使う火薬の調合を行っていた。
けれどどうにも指先が冷えて、集中しきることが出来ない。
火薬の調合は非常に繊細な作業であるから、指の感覚は正確であることが望ましいというのに、近頃は木枯らしなんぞが吹いたりするような、風の冷たい日が続いている。
そうすると自然と仙蔵の指先は冷え、感覚が鈍ってしまうのだ。
今日はせっかく、ギンギンと煩い同室者が委員会でいない日なのだから、出来れば今日の内に細かい作業は終わらせてしまいたい。
仙蔵は呼吸を調え、冷える手先を擦りながらも再び手を動かそうとした、その時。
「おーい仙ちゃん! バレーするから焙烙火矢を貸してくれー!」
そんな突っ込み所満載の言葉と共に、ズバァン、と戸を開け放って小平太が登場した。
「………、断る」
「えっ 何でだ?」
「何でじゃない、何でバレーをやるのに焙烙火矢がいるんだ、バカ者!」
仙蔵は小平太の申し入れをぴしゃりと跳ね退けつつ、その顔に向かって恨めしい視線を送った。
小平太が無駄に部屋の戸を大きく開けているせいで、冷風が吹き込んでくるため余計に指先が冷えるのだ。
早くその戸を閉じろと言うのと、早く此処から出て行けと言うのとでは、どちらの方が良いだろうか。
あくまでも文次郎がいない間に集中して作業を終わらせてしまうつもりでいた仙蔵が、そんなことを考えながら無意識の内に冷えた手を合わせていると。
「ん、何だ仙ちゃん、手が冷たいのか?」
目敏くもそれに気付いた小平太が、言うが早くどかどかと室内に足を踏み入れ、そして擦り合わせていた仙蔵の手を、両の手でぎゅっと握った。
「…!」
仙蔵は目を見張る。
小平太の手は、とても温かかった。
「おお、冷たいなぁ、仙ちゃんの手は。 でもどうだ、私の手、あったかいだろう?」
言って、いかにも何も考えていなさそうに、にかりと笑う。
仙蔵は何と声を発するべきか迷った。
握られた手に伝わる温かな手の温度が、どうしようもない程に暖かかく、元々言うつもりでいた追い払うような言葉は溶かされてしまったかのように消えていく。
「なぁ知ってるか? 長次が言っていたけれど、手が冷たい人は心が温かいのだそうだ」
仙蔵の白い指先が温まるように握り込みながら、小平太が口を開いた。
何が嬉しいのか。
何が楽しいのか。
その顔に、相変わらずの笑みを乗せて。
「だからこんなに手が冷たい仙蔵は、優しい人間ってことだな!」
人差し指、中指、薬指、小指。
温かい手に包まれる感覚は、その一本ずつに血が通う感覚に似ている。
―――けれどそれとは反対に、冷たい手を握り込むお前が覚える感覚は、きっと氷を掴むような、さぞや冷たいものだろうに
―――それをも厭わず、私の手を取るお前の方こそ
「………、優しいのはどっちだ…」
ぽつり。
零れた声に滲むは、諦念の色。
「んお? 何か言ったか仙ちゃん」
首を傾げる小平太に、仙蔵は嘆息を一つ落とし、それから緩やかに口許を吊り上げる。
「優しい人間、か…。 そうまで言われては仕方ないな。 …要望通り、焙烙火矢を貸してやろう」
「おお、本当か!」
「勿論だ、この私に二言はない。 …だから今暫くは、」
仙蔵は一度そこで言葉を区切り、それまでは掴まれていただけだった手で、小平太の手を握り返した。
「そうしてこの手を温めておけ」
褒美にはお前の望む物を、用意してやるから。
END.
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今回はこへの作戦勝ち(笑)
小平太は冬でも暖かそうで良いなぁ
下手したら長袖着なさそうですものね(笑)
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