07/07の日記
00:28
*七夕記念SS
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七月七日。
この日はかつて、互いを愛し求め合うばかりに引き離されてしまったという非業の恋人達が、年に一度だけ逢瀬を許された特別な日である。
「でもなぁ、なんか私、そんなん嫌だなぁ」
夕飯の買い出しに賑わう近所の商店街の一角、飾られた笹を見上げて、ふと小平太はそんなことを言った。
いや、嫌だと言っても、そう言ったところでどうしようもないだろうに、と。
そんなことを思いつつ隣を並び歩く姿にちらりと視線をやると、案の定そこには不満げな顔がある。
「だって、この織姫と彦星ってのは、務めとか仕事とか、全部放り投げるくらいに相手のことしか考えていなかったような奴らなんだろう?」
「………まぁ、なぁ」
そんな言い方をすると身も蓋もないが。
しかしまぁ、かなり乱暴だが現代風に要約すればそういうことだと言えないこともない。
「だったら、なんで年に一度だけ、なんてつまらない制約を真に受けるんだ。 そんなに互いのことしか考えずにいたんなら、最後までそうしていれば良かったのに」
風に靡く笹の葉飾りのてっぺんにある、おそらくは織姫と彦星を象ったのであろう二体の人形を、まるで睨みつけるように見上げて、小平太は言う。
「…私だったら絶対に、そうするのにな。 もしも私だったら、例えばこの世の誰に命令されたって、お前と一年に一度しか会えないなんて嫌だから、絶対に大人しく従ってなんかやらないぞ」
まるで、自分ならそんな悲劇にはさせないとでも言うように。
笹飾りを見上げる横顔には、やるせないような、憤っているかのような、そんな色が窺えた。
「織姫にも彦星にも、そりゃ色んな事情というの、あったんだろうとは思うけどな。 でも、本当に二人には離ればなれになるしかなかったのかって思うんだ。 親や兄弟や家や役目、その全部を捨てれば或いは、恋人の手を取るっていう道もあったんじゃないのか? 本当に二人には、その選択しか残されていなかったのか?」
「…、小平太…」
親や兄弟や家や役目。
小平太の言うように、その全てを投げ捨ててしまうという行為が、必ずしも尊く、美しいものだとは思わない。
だが、それでも。
織姫と彦星、引き離されてしまったという非業の恋人。
もしもこの二人が引き離される刹那、小平太のこの言葉を聞いていたなら、現在に伝わる逸話に、何かしらの変化はあっただろうか、と。
そんな風に考えてしまうくらいには興味深く、また、そうであっても悪くないのではないかと思えるくらい、その言葉は自らの腑に落ちつく言葉だった。
「良いじゃないか、道理とか、倫理とか、そういう全うな道を踏み外したって。 好きな奴と一緒にいること以上に大事なことなんて、私には思いつかん」
そう言って、小平太はようやくしかめっ面を引っ込めると、今度は一転、はにかんだ様な笑顔を浮かべた。
「だからずっと一緒にいような!」
踏み外した先の道とて、また道であるならば
その道こそが己の進むべき道であると信じて行こう
例えそれが、茨で出来た地の果てへの入り口であったとしても
二人手を取れば、進めぬ道などないのだから
「…ああ、そうだな」
欲を言えば、その道の行く末にも救いがあってくれれば良いと思う。
天に向かって祈りを込めれば、この願いは叶うだろうか。
今日は七夕。
みんなの願いが、叶えられると伝わる日なのだから。
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タイトル通り、七夕記念SSです。
いやもういろんなところでネタ被りしてるんだろうなってくらい、ありがちなネタでごめんなさい。
(でもupしちゃう貧乏性←)
お相手は文次郎でも長次でも留三郎でもいけるようにしよう、と思っていたのですが、まぁ出来てみたらこれ、多分中在家氏でしょうね…
………、あの、約一月遅れの六ろの日記念ってことでお願いします(何言ってんだお前)
七夕の風習が室町にあるかどうかが謎なので、現代パロディ推奨です。
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