12/24の日記

09:49
*サイレント サンダー
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 バチリ。
 触れようとした手と頬との間に、人の目には見えないくらいに僅かな閃光が走る。
 その正体はこの冬の頃に頻発する静電気で、文次郎は恐る恐る手を延ばした自分を内心で小さく叱咤した。 
 何を今更、恐れる必要がある?
 かれこれ六年もの時間をかけて積み上げた想いを、或いは打ち明ける絶好の機会を得たというのに。
 気を取り直して、文次郎は再び手を差し延ばす。
 今度はもう、途中で何を言われようとこの手を止めては駄目だ。
 そう心に誓っていた…が。
「………、もんじろう…」
「!」
 普段からは想像もつかないような震えた声で名を呼ばれ、文次郎は思わず手を延ばすことを忘れて、相手の顔を注視した。
 暴君とまで呼ばれるこいつが、こんな声を出すなんて。
 俺はそこまでの不安を与えてしまっているのか…?
「お前…」
 怖いのか、と。
 問おうとした文次郎の言葉はしかし、相手の声に遮られた。
「凄いな!」
「…は?」
「私、今、産まれて初めて静電気にあったぞ!!」
 文次郎の目に写ったのは満面の笑みを浮かべる小平太であり、その顔は間違っても何かに怯えているだとか、恐怖しているだとかといったような様子は見られない。
 その、嬉々とした表情といったら何と愛らしく。
 その空気をぶち壊す発言といったら、何と憎たらしいのだろう。
「…お、ま、え、は…っ」
 文次郎は叫び、そして思い知る。
「静電気程度ではしゃぐんじゃねぇよ、バカタレェェェェ!!」
 恋愛とはまさに。
 そんな相手に惚れた自分の敗けなのだ、と。

END.

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室町の頃の日本では、静電気は多分理論で証明されていなかったのではないかと思うので、その辺は突っ込まないで下さい済みません。

潮江氏は確実に夜這いか何かをしようとしてますなw
文こへ美味しいですウフフ。

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