12/21の日記

00:51
*雪掻き日記
---------------

 その年の冬の寒さは別格で、普段は中々積雪の見られないこの地にも、数日に渡って白雪が舞い落ちる空模様が続いた。

 …結果。

「そぉれ! 雪かきどんどん!」
 人っ子一人としていない学園の庭で、独特の掛け声(?)とともに小平太は雪を掻く。
 白い息を吐いて、鼻の先や頬を赤くしながらの作業ではあったが、雪を掻き退けるスピードは驚異的だった。
「…今日ほど小平太を頼もしいと思う日はないな」
「化けモンかあいつは…」
 確かに日頃から、『規格外』だの『人間離れしている』だのとは言われていたが。
「朝からずっと、休みもせずによく続くものだ、全く」
 文机の上に火薬を並べていた仙蔵が、自室の開け放たれた障子の隙間から外へと視線を飛ばす。
 文次郎がそれに習うように首を巡らせると、そこには相変わらずのスピードを保ったまま雪掻きに勤しむ背中があった。
 そこへ、近付く影が一つ。
「小平太、雪掻きするならこれ使えよ」
 雪掻き用に防水加工を施した、特製の踏鋤を二本携えて顔を見せたのは留三郎だった。
「おお、これは良さそうだな!」
 小平太は嬉々としてそれを受け取ると、早速雪の塊に鋤を突き立てる。
「うん、使い易いぞ! しかも二つあるから、一つ壊しても平気そうだ」
「いや、これは予備じゃないんだ。 これを使って俺も雪掻きを手伝おうと思ってさ」
 いかにも人好きのする笑みを浮かべて、留三郎は小平太の隣に並んでざくりと雪を掘り返す。
「………。」
 その光景を、文次郎は明らかに不機嫌な様子で見つめていた。
「あンのクソ留…。 昨日、俺が雪掻きやってる時には目もくれなかったくせに、小平太の時にはああも目敏く付き纏いやがって…!!」
 そう。
 広大な広さを持つ忍術学園の庭の雪掻きは一日やそこらで終わるような作業ではなく、昨日は文次郎の手によってその作業が行われていたのだ。
 但し、誰も手伝ってはくれなかったが。
「仕方なかろう。 お前と留三郎とでは、助け合っている姿を想像する方が難しいというものだ」
 極めて冷静な同室者の意見は尤もなものであったが、それにしても面白くないと思ってしまうのが人間ではないか、と。
 文次郎がそんなような反論を言おうとしたところで、それまでずっと火薬と睨めっこをしていた仙蔵がおもむろに腰を上げた。
「さて、と。 凍ってしまっている雪を溶かしてやるとするか」
 その手には、恐らく特製の物と思われる焙烙火矢が鎮座している。
 つまり仙蔵もまた、雪掻きをしている小平太を手伝ってやるつもりでいるらしかった。
 昨日はルームメイトが汗水垂らして労働しているのを横目にしながらも完全にスルーしていたくせに、この対応の違いは何なのか。

「小平太ー、留さーん、甘酒作ったから、休憩にしなよー」

 そうこうしているうちに、庭先からは伊作の声まで聞こえて来る。
「…お前らなぁ…」
 小平太と自分とで、本当に対応が天と地ほども違おうとは。
「俺とあいつの、何が違うってんだ…?」
 思わずぼやいた文次郎の言葉は、さっさと庭へと出て行った者達に届くはずもなく、虚しくも沈黙の海に沈む…かに思われたが。

「…小平太の方が愛らしかろう…」

 二人分の防寒具を持ち、今まさに庭へと出て行こうとしていたらしい長次が足を止め、そんなことを言うものだから。
「………、そりゃ良かったな…」
 最早何も言うまいと、文次郎は大きな嘆息を落とすのだった。

END.

――――――――――

今年は豪雪だそうですが大丈夫でしょうか…

忍術学園の積雪事情は適当なので悪しからず。
中在家氏が持っている防寒具は、小平太用と自分用です(笑)
下心がミエミエの留と、皆に優しい伊作と、意外とイイ人な仙蔵さんと、こへの世話だけを焼く中在家氏と、苦労人の文次郎。
そんな六年生が好きです←

前へ|次へ

コメントを書く
日記を書き直す
この日記を削除

[戻る]



©フォレストページ