12/06の日記
19:35
*人形哀歌
---------------
学園長の思いつきで突如開催された文化祭が何とか無事に終了し、忍術学園にはいつもと変わらない平穏な日常が戻ってきた。
…ごく一部を除いて。
「―――さぁ、観念しろ」
放課後の、人気の少ない教室から、何とも剣呑とした声が響く。
声を発したのは、得意武器である鉄双節棍を構えた食満留三郎だった。
姿勢を低く保ち、対峙する相手を威圧するかのような鋭い視線には、軽い殺気めいたものまで滲んでいる。
「か…観念しろって…そんな…」
留三郎に迫い詰められているのは、特別これといった武装もしていない同学年の生徒だった。
冷汗を流して慌てる彼の後ろには壁が迫っており、逃げ場がないことを示している。
「ちょ…ちょっと待ってくれよ! 俺は別に、アレをどうこうしようって気は無いんだ!」
このままでは危ない。
自身の危機を察知した生徒は、無言のままジリジリと距離を詰めてくる留三郎に必死に弁解した。
「ただ、今度の休暇の時にでも、実家の妹にやれば喜ぶかと思って、それで…っ」
「言い訳無用!」
ドスッ、と鈍い打撃音が響いて、やがてその場に一人の生徒がくず折れる。
その拍子に、倒れた生徒の懐からポトリと人形がこぼれ落ちた。
「…やっぱりな」
低く呟いて、留三郎はその人形を拾い上げる。
「何が実家の妹に、だ。 しっかり自分で持ってるじゃねぇか」
留三郎が拾った人形は、先の文化祭で体育委員会が販売した小平太パペットだった。
「これで十個目か…」
体育委員長を模して造られた、どこかとぼけた様な顔付きの人形。
留三郎は現在、これを回収して回っていた。
事の発端は、あの文化祭の最中。
“大量に作ったパペットとギニョールが、あっという間に売り切れた”
そう聞いて、留三郎は思わず驚愕と憤怒に拳を握った。
小平太をモデルにした人形が即完売。
それは即ち、この学園内にそれだけ小平太を欲している奴がいるということに外ならない…と、留三郎は考えている。
全く、冗談じゃない。
吐き捨てて、留三郎はパペットを懐にしまい込むと足早にその場を後にした。
文化祭の翌日から、平滝夜叉丸と次屋三之助を問い詰めて聞き出したパペットの購入者を、片っ端から訪ねて人形を手放すように注意勧告して回ること早三日。
不思議そうな顔をしつつも大人しく忠告を聞き入れる者もいれば、時には先程のような得物を持ち出してのやり取りになることもあったりと、その道程は中々どうして一筋縄には進まない。
百歩譲って下級生が購入した分には目をつぶるとしても、上級生が―――即ち自分以外の“男”が、想い人の姿を象った人形を持っている状況というのは、実に面白くなかった。
「待ってろよ小平太、必ず俺が全部回収してやるからな…!」
決意も新たに、留三郎は力強く一歩を踏み出す。
別に小平太に回収を依頼された訳でもないのに、本人的には悪漢から姫を取り戻す若武者にでもなったかのようだった。
「あ、食満先輩だ」
「本当、今日も熱血してるね」
通りすがりの下級生にそんなことを言われているとは露知らず、留三郎の歩みは止まらない。
―――しかし多くの場合、こういった思いや行為は報われないものである。
この数日後、留三郎のもとに
「こらバカ留! お前、折角私達が売った人形を取り上げるなよ!」
と言いながら小平太が怒鳴り込んでる事態が起こるのだが。
それはまた、別の話である。
END.
――――――――――――――
今更文化祭ネタで済みません;
あっという間に売り切れた=こへ大人気!?みたいなどーしょもない発想です。
留こへが好きですが留→こへも美味しい!
前へ|次へ
□ コメントを書く
□ 日記を書き直す
□ この日記を削除
[戻る]