10/11の日記

20:03
*引立て役
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 “美しいモノ”が美しくあるためには、それ相応の“引立て役”が必要らしい。

 らしい、という何とも曖昧な物言いになったのは、これが僕自身の発想ではないから。
 例えば宝石の隣に石ころを配置し、著名な画家が描いた絵画の横に素人の落書きを並べれば、嫌でも前者は美しく、後者は見劣りして見える。
「いや…そりゃ、そうだろうけどさぁ」
 そんな分かり切った理屈を朗々と語った友人に、思わず苦笑してしまった。
「けど、ではないわ。 これが世の真理だろうに」
「ああ、うん。 …その理屈が分からないっていう訳じゃなくて」
 なんだろう。
 何て言ったら良いのかなぁ。
「…それで仙蔵は、毎日小平太を探して歩いているの?」
「勿論だ!」
 ばん、と机を叩いて宣言する姿は、堂々としていて、威厳に満ちていて、確かに“格好良い”のだけれど。
 なんかこう…根本からズレてるような気がするんだよなぁ…
「良いか伊作。 私のような完っ璧で美しい人間の隣には、小平太のような一見何も考えていなさそうな奴が必要なんだ。 そうすれば私の美しさがよりいっそう引き立つだろう?」
 仙蔵の言論を前にしては、僕の思考なんかお構い無しで進んで行く。
「それにだ、小平太という人選も重要だ。 これがあのギンギンと暑苦しい文次郎だったなら私の品位まで損なわれてしまう!」
 長次は笑顔が不気味な上に無愛想すぎる、とか。
 僕達アホのは組には用がない、とか。
 仙蔵は結構な時間をかけて、色んなことをまくし立てた。
「それに比べて小平太のあの無邪気な笑顔を見ろ! ああいうのを愛らしいというんだ! あれこそ、私の“引立て役”に相応しい!」
 だからこそ仙蔵は、朝・昼・晩を問わずに小平太の行方を探し回り、自分の隣に置いておこうとしているらしい。
「それってさ、仙蔵」
 僕は前から、思ってはいたんだけど。
「君、小平太に惚れてるんじゃないの?」
「………っ!」

 息を飲んだ仙蔵の顔は紅葉のように紅く。
 ―――答えは、本人のみぞ知るところ。


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仙→こへ?もどきです。
何か仙っていう漢字が入った地名の、凄い紅葉が綺麗なところがあるらしくて。
それを滝か渓流だったかは忘れましたが、そういうのが引き立ているとかなんとか、テレビで言ってまして。
そこから思い付きました。

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