15000hit企画

□流れない涙は
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 アイクさんが、死んだ。

 そう聞かされたのは、3日ほど前の事。

 死因とか、よく覚えてない。

 だってオレの頭の中は、“アイクさんが死んだ”という事だけで埋め尽くされてるから。

 急いで駆けつけた。

 啜り泣く声が、あちこちから聞こえる。

 座り込み、ケースを見ていたマルス先輩に、近付く。

 マルス先輩が、アイクさんの事好きなの、分かってた。

 だからマルス先輩は、泣いてるんだろうって、そう思った。

 マルスさんに近付く、つまりケースに近付いた。

 何か、眠ったように安らかなアイクさんが、そこにいて。

 涙は、わいてこなかった。

 勿論、悲しい。

 けど……涙は、流れなかった。

 「マルス先輩……」

 隣を、見た。

 マルス先輩は、泣いていなかった。

 何で、だろう。

 この人は、苦しいはずなのに。

 何で泣かないんだろう。

 悲しく、ないの?

 「先……輩?」

 「……あ……」

 マルス先輩が、オレの方を向く。

 何処か虚ろな目をしたマルス先輩が、そこにいた。

 「……何、ピット?」

 「な、何でも……ない、っス。」

 オレの考えが、浅はかだったと分かった。

 マルス先輩は本当に、アイクさんの事、好きだったんだ。

 誰よりも、悲しんで。

 誰よりも、苦しんでるんだって。

 ……そう、思った。





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